2018年度の活動報告

認知科学シンポジウム

金沢大学認知科学シンポジウム:「今こそ基礎心理学:視覚を中心とした情報処理研究の最前線」

  • 日時:3月6日 13:30~18:00
  • 場所:金沢大学角間キャンパス 人間社会第1講義棟 301講義室
  • 主催:認知科学研究グループ「コミュニケーション行動の認知プロセスと、その発達、学習。障がい支援の研究」
  • 共催:人文学類(金沢大学人文学類シンポジウム)、人間科学系
  • チラシ
  •  近年の認知科学分野は、人工知能、深層学習などを対象にした研究が増えており、ヒトの知覚に関わる研究が減少している感が否めない。しかし、ヒトの情報処理の仕組みを解明することを目指すのが認知科学の使命であるなら、ヒトがどのように情報を取り込んでいるのかという知覚心理学、基礎心理学の知見が重要であることは確かである。本年の認知科学シンポジウムでは、あらためてこの分野に光を当て、最近の研究ではどのようなことが分かってきているのかということを若手の講師の方にお話しいただき、相互の理解を深める場とすることを目指す。

招待講演① 竹島 康博先生(同志社大学 心理学部 心理学科)

「多感覚知覚における視覚情報の役割」

 人は日常複数の感覚の情報を使って外界を知覚している。このような多感覚情報による知覚は,統合される感覚の情報どうしが相互に影響し合って形成されていると考えられている。本講演では視覚と聴覚の感覚情報の統合過程に焦点をあて,どのような視覚情報が視聴覚統合の処理過程に影響を与えているのかについて検討した研究を紹介する。

招待講演② 齋藤 五大先生(東北大学大学院 文学研究科 心理学講座)

「身体と視覚の多感覚知覚研究」

 本講演では,両義的な視覚運動知覚における身体姿勢の効果や体性感覚的な知覚における手の運動観察の効果などを取り上げて,多感覚知覚のなかでも主に身体と視覚の相互作用に関する研究を中心に議論する。

一般発表①

須田桃香1・小島治幸2・菊知 充31金沢大学人間社会環境研究科博士前期課程 2金沢大学人間科学系 3金沢大学子どものこころの発達研究センター)

「幾何学図形への注視時間の男女差」

一般発表②

趙立翠1・安永大地2・入江浩司2・小島治幸31金沢大学大学院 人間社会環境研究科 博士後期課程 2金沢大学 人間社会研究域 歴史言語文化学系 金沢大学 3人間社会研究域 人間科学系)

「日本語による統語処理優位性仮説の検討:近赤外分光法による実験研究」

一般発表③

朝岡 陸1・浅倉萌楓2・小島治幸11金沢大学 人間社会研究域 人間科学系 2金沢大学 人間社会学域 人文学類)

「『季節』と『色』の結びつきによって生じるストループ様効果」

認知科学セミナー

認知科学セミナー:「Rとanovakunの使い方」

  • 発表者:朝岡陸(金沢大学人間社会環境研究科博士研究員)
  • 日時:2月18日(月)
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)

認知科学セミナー(博士論文報告会):「中国語母語話者と日本語母語話者の日本語処理に関する言語認知脳科学的研究」

  • 発表者:趙立翠(金沢大学人間社会環境研究科博士後期課程)
  • 日時:1月21日(月)
  • 場所:人間社会2号館3階会議室

認知科学セミナー:「統合失調症の認知機能に対する自己認識の影響」

  • 発表者:蝦名昂大(医薬保健学総合研究科 臨床認知科学研究室)
  • 日時:1月15日(火) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  •  統合失調症の認知機能障害は社会復帰などの予後に関連する重要な因子として知られており,最近では,自身の認知機能障害の程度を正確に認識することにも問題があることが指摘されている。これまでの先行研究から,統合失調症における自身の認知機能に対する認識には,抑うつ症状と,客観的な評価で測定されるような実際の認知機能が関連している可能性が考えられる。しかし,その他の罹病期間や病前推定IQとの関連は検討されていない。本研究では,認知機能障害の主観的な捉え方による罹病期間,病前推定IQおよびQOLの影響について検討することを目的とした。結果として,認知機能障害の程度を過小評価することは罹病期間の長さおよび病前推定IQの低さと関係することが示された。さらに,認知機能障害に対する主観的な捉え方が,患者のQOLに影響することが示され,自身の認知機能障害を過大評価することは,低いQOLの要因となり得ることが示唆された。

認知科学セミナー:「文章完成翻訳タスクが学習者の中日翻訳過程に与える影響についての質的研究」

  • 発表者:張雅婧(Zhang, Ya-Jing)(金沢大学特別研究学生)
  • 日時:12月17日(月) 18:15~
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 教室第二言語習得(classroom second language acquisition; SLA)または指導を受けた第二言語習得(instructed SLA)と呼ばれる研究領域で、教室における第二言語習得のメカニズムがさまざまな角度から研究されている。SLAにおいて、目標言語のインプットを学習者が取り込むことは、極めて重要な条件であることは言うまでもない。さらに、そのインプットが中間言語システムに取り込まれ、インテイクが行われる。そして、インタラクション(意味交渉)を経て、学習者が話したり、書いたりすることで、第二言語習得を促進できると考えられる。本研究では、第二言語習得のプロセス、特にアウトプット仮説に基づいた文章完成翻訳タスクという指導法を通して、アウトプット仮説の働きおよび学習者の翻訳過程に与える影響を考察した。

認知科学セミナー:「代中国語における数量詞の構文機能:攻撃、被害を表わす拡張二重目的語構文を中心に」

  • 発表者:加納希美(歴史言語文化学系 講師)
  • 日時:12月10日(月) 18:15~
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  •  本研究は、現代中国語の数量詞を伴う構文を考察対象とし、数量詞のタイプごとの特性が種々の構文の成否や構文的意味の形成にどのように作用するかという観点から数量詞の構文機能の解明を目指すものである。例えば攻撃や被害を表わす“我泼了老王一脸茶水(私は彼女の顔じゅうに茶をぶちまけた)”や“溅了老王一身水(王さんの体中に水がはねた)”等の表現は非三項動詞から構成される拡張二重目的語構文の一種であるが、本研究では当該構文中の“一脸(顔じゅう)”や“一身(体じゅう)”等の数量詞が独自の描写性をもつ点に着目すると共に、従来必ずしも充分に明らかにされてこなかった当該構文の特徴を問い直すことにより、数量詞の構文機能について合理的説明を試みる。

認知科学セミナー:「VRにおける三軸運動が酔いに与える影響」

  • 発表者:LI XINHUA (リ シンカ)(新学術創成研究科 融合科学共同専攻・M1)
  • 日時:12月3日(月) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  •  VRの普及を妨げる主要因として、VR酔いの問題が未だ解決されてない。VRにおけるユーザーが移動するとき、視覚からとらえる情報と現実の自分の体が覚えている感覚との不一致によってVR酔いが生じている。不快感を軽減するために、VRにおける移動方法の最適化が極めて有意義だと思われる。本研究では、Unity上でC#でVRシーンを作成して、Oculus社が開発・発売しているヘッドマウントディスプレイOculus Riftを用いて、VRにおける三軸運動が酔いに与える影響を分析した。また、性差と酔いの関係分析を行った。
  • 認知科学セミナー:「オフラインとオンラインの自尊感情がTwitter依存に与える影響の検討」

    • 発表者:石井 祐里(金沢大学人間社会環境研究科M1 岡田研)
    • 日時:11月26日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  インターネットの普及により,生活に支障をきたしているのにも関わらず利用をやめることができない“インターネット依存”が問題になってきている。様々な先行研究において自尊感情の低さがリスク要因の一つであることが明らかにされているが,心理的欠損が直接依存につながるわけではなく,欠損からの逃避のためにネットを利用することによって依存傾向が強くなると考えられている。また,ネット依存は包括的な概念であり,正式に疾病として認定されたゲーム障害の他にもSNSへの依存もあるとされるが,SNSは種類が多く特に日本においては個別に依存を検討した研究が少ない。そこで本研究では,若者の間で広く利用されているSNSとしてTwitterを取り上げ,代償的利用,自尊感情に関する先行研究の結果がTwitterにおいても支持されることの確認を目的とした。また,SNSでは匿名のアカウントを作ることができることからCyber-selfにも焦点を当て,Twitter上の自己への自尊感情と現実の自己への自尊感情とを区別し依存に与える影響について検討した。加えてTwitter上の自己への自尊感情のみが高くなる要因として自身に関する虚偽の情報の発信を仮定し,自尊感情や代償的利用との関連の検討も行った。結果として,現実自尊感情が低いユーザーの中でもTwitter自尊感情が高いユーザーは特に依存傾向が強いことが示された。また,代償的利用が多いユーザーは虚偽の発信が多く,虚偽の発信が多いと依存傾向が強くなることも示された。

    認知科学セミナー

    • 発表者:須田桃香(人間社会環境研究科博士前期過程1年)
    • 日時:11月19日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  自閉スペクトラム障害(ASD)は対人関係の障害、発話の困難さ、そしてこだわりや常同行動が生じることを特徴としている。そのほかに、視線傾向などの知覚機能の特異性が指摘されている。Karen et al. (2011) はASD児と定型発達(TD)児の視線傾向を検討した研究を行っている。その結果ASD児はTD児とは異なり、人の映像よりも幾何学図形の映像を注視することが示されている。上述したASDの障害特性はBaron-Cohen (2002) が提唱した「The extreme male brain theory」から説明できると考える。この説は、自閉症者の症状は男性における特徴的な脳の活動がより極端になったために生じるとするものである。この説でBaron-Cohen (2002) は、男性は規則に基づき、構造化された情報を好む傾向があるり、ASD者はその傾向を極端に示すと主張している。幾何学図形はその一例であると考えられる。TD児の視線傾向の性差を検討している研究には、Nishizato et al(2017)と、Fujisawa et al (2014)がある。この2つの研究ではTDの男児が女児と比較して幾何学図形を注視するという結果に関して一貫した結果が得られていない。そこで本研究ではNishizato et al(2017)と、Fujisawa et al (2014)の研究の追試を行った。結果として、一部のシーンでは女児より男児の方が幾何学図形を選好することが示されたが、他のシーンでは幾何学図形への選好に男女差は示されなかった。また、女児の方が幾何学図形を好んで見たというケースは観察されなかった。全体として男児の方が女児よりも幾何学図形を注視する傾向があることがみられたといえる。今回の計測の結果は、男性が構造化された情報を好むというBaron-Cohen(2002)の説は幼児期から始まっている可能性を示唆すると考えられる。そのためさらにデータを増やして検討を継続したい。

    認知科学セミナー:「コーパスに基づく英語構文研究:認知言語学的視点から」

    • 発表者:渋谷良方(歴史言語文化学系 准教授)
    • 日時:11月12日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  認知言語学(Cognitive Linguistics)、および用法基盤の構文文法(usage-based construction grammar)では、語、統語的パタン、接辞、造語、発音、イディオム、述べられたことと意図されたことの違いの理解に関わる談話的複雑性、など言語に関わる様々な事象を指すのに、「言語の知識」という用語が用いられている(Croft & Cruse 2004; Goldberg 2006; Hilpert 2013)。すなわち、この枠組みでは、言語の知識は、話者が言語について経験すること全般を指すものと規定され、言語の知識は、実際の言語使用を通じて学習することが可能だと考えられている(Tomasello 2003; Bybee 2006, 2007, 2010; Goldberg 2006)。発表者は、話者の言語知識(より詳しくは、「構文知識」)の解明に興味を持っている。より具体的には、「構文」(construction)(構文文法的意味で)の変異(variation)と変化(change)を詳細に捉えることにより、話者の言語知識の構成と組織化のメカニズムを解明することに関心がある。本発表では、まず発表者の研究の背景について簡単に述べ、次に現在取り組む「英語動詞形態構文」(English verbal morphological constructions)の通時的研究を紹介する。事例研究紹介後は、発表者の研究の今後の方向性について述べる。

    認知科学セミナー:「“主観的等輝度点”は左右半視野によって変わるのか?-Minimum Flicker法とMinimum Motion法を用いた検討」

    • 発表者:朝岡 陸(金沢大学人間社会環境研究科博士研究員)
    • 日時:11月5日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  色は色の性質 (赤,緑など)を示す色相という要素の他に,色の明るさを示す輝度という要素を持つ。輝度の知覚は色相によって変化する。例えば,物理的輝度が等しい緑色と赤色を見た場合,緑色が赤色よりも明るく感じられる。このように,主観的に等しいと感じられる輝度(主観的等輝度点)と物理的に等しい輝度は異なることが知られている。また,視覚情報処理における左右半視野の非対称性が多くの研究で指摘されている。本研究では主観的等輝度点が左右半視野の影響を受けるかどうか予備的に検討することを目的とした。主観的等輝度点を求めるための手法として,Minimum Flicker法とMinimum Motion法を用いた。参加者はどちらの手法でも,輝度が一定の赤色に対して,緑色の輝度を等しくするように調整することが求められた。参加者は画面中央に提示される注視点を固視しながら,左視野か右視野に提示される刺激に対して緑色の輝度調整を行った。その結果,Minimum Flicker法での主観的等輝度点は左右半視野の影響を受けなかった。一方,Minimum Motion法では,主観的等輝度点は右視野の方が高いことが示された。よって,左右半視野が主観的等輝度点に及ぼす影響は,用いる課題によって異なることが示された。

    認知科学セミナー:「第二言語学習者の共起表現の心的処理における母語の影響に関する検討-中国語母語の日本語学習者を例に-」

    • 発表者:趙 立翠(人間社会環境研究科博士後期課程)
    • 日時:10月29日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  本研究の目的は「中日同形同義語+動詞のコロケーション」を利用してコロケーション処理における母語の影響を検証することである。中国語と日本語の一致するコロケーション(C-J),日本語にしか存在しないコロケーション(J-only),中国語にしか存在しないコロケーション(C-only),中国語と日本語の両方に存在しない語連結(Unrelated)の4種類の刺激条件を呈示し,中国語母語の日本語学習者66人,日本語母語話者20名および日本語学習経験のない中国語母語話者14名を対象に,容認性判断課題を行った。日本語学習者を習熟度によって分けて分析した結果,習熟度の低い学習者のC-Jの平均正反応時間がJ-onlyより短く,C-onlyの平均正反応時間がUnrelatedより長かった。それに対し,習熟度の高い学習者のC-Jの平均正反応時間がJ-onlyと差がなくなったが,C-onlyの平均正反応時間が依然としてUnrelatedより長かった。これらの結果から,習熟度が高くなるにしたがって,中国語母語の日本語学習者が,「中日同形同義語+動詞のコロケーション」を処理する際に,母語の正の影響を受けなくなったが,負の影響を免れにくいことが示唆された。

    認知科学セミナー:"Physical activity and interference processing in healthy younger adults: An ERP study"

    • 発表者:Mohamed Aly, PhD student, Graduate school of human and social environmental studies.
    • 日時:10月22日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  This study was designed to examine physical activity differences in event-related potentials (ERPs) associated with interference processing by performing color and word Stroop task in 11 more- and 10 less-active younger adults. The results indicated that more-active younger adults have faster reaction times and lower individual variability in reaction times compared to low active, particularly in the high interference task (word task). Neuroelectric data revealed larger P300 amplitude, and shorter and less-negativity of N450 in the more-active group compared to the less-active, suggesting that the positive effect of physical activity on interference processing may be driven by the modulation of P300 and N450. Taken together, these findings suggest that young adults who involving in an active lifestyle may exhibit generally enhanced activity in the frontal cortex associated with decreasing the stimulus conflict which enables more efficient interference resolution in the Stroop task. The results replicate previous studies that have reported generally improved executive function among more active; additionally, they extend the current knowledge by indicating that these cognitive improvements in interference processing not only observable with later ages but also could be obtained with younger ages.

    認知科学セミナー:「定型発達児の幾何学図形への注視―「男性脳の極端化説」の検討―」

    • 発表者:須田桃香(人間社会環境研究科博士前期過程1年)
    • 日時:10月15日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  自閉症とは発達障害の一種であり、脳の機能不全によって対人のコミュニケーションに障害が生じるとされている障害である。自閉症の症状が生じるメカニズムというものは未だに明確にはされていないが、いくつかの仮説が提唱されている。その中の一つに、コーエン(2002)が提唱した「男性脳の極端化説」というのがある。この説は、自閉症者の症状は男性における特徴的な脳の活動がより極端になったために生じるとするものである。この男性脳の極端化説を証明するためにコーエン(2002)は男女を対象にして他者との共存や思いやりなどを数値化した共感指数と、収集した情報を集めてそこに系統だった秩序を作り出すこと、つまりある規則に基づいているものをより好むという傾向を示したシステム化指数を測定した。結果として男性は女性と比較してよりシステム化指数が高いことが明らかになった。同様にコーエンは自閉症者らにもこの調査を行い、システム化指数が定型発達者よりも高いことを見出したことから提唱している。その仮説の中に自閉症者及び男性は規則に基づいた,構造化された,事実に関する情報をより選好するという主張がされている。実際Karen et al.(2011)によると、視線追従装置を用いて人の顔と幾何学図形への注視割合を比較した実験では自閉症者は定型発達者より幾何学図形に注視することが示されている。この結果は幾何学図形はある一定の規則を伴っている情報であるため、自閉症者は定型発達者よりも注視したという可能性が考えられる。しかし、Karen et al.(2011)の研究では「男性脳の極端化説」の観点から検討は行われていない。
       そこで本研究はコーエン(2002)の主張の妥当性を検討すべく視線追従装置を使用し、定型発達児の男女の幾何学図形への注視に性差が認められるかを検討した。結果として男性は女性と比較してより幾何学図形に注視することが示唆され、コーエン(2002)の「男性脳の極端化説」を支持していると考えられる。

    認知科学セミナー:「ルクセンブルク語における授与動詞 lux. ginn (engl. give) の多機能性」

    • 発表者:西出佳代(歴史言語文化学系 准教授)
    • 日時:7月30日(月) 16:30 - 17:30
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    • 中部ドイツ語西モーゼルフランケン方言に分類されるルクセンブルク語では、本来、授与の意味を表す動詞 lux. ginn (engl. give) が複数の機能を有する多機能動詞へと文法化を起こしている。同動詞は、現在、もとの授与動詞としての機能の他に、発生動詞、存在動詞、起動相のコピュラ、受動の助動詞、接続法の助動詞としての機能を有している。本発表では、これらの機能を整理し、文法化のプロセスをたどる。また、上記の多機能性を有するに至った要因の一つとして、ルクセンブルク語における格の体系について言及する。

    認知科学セミナー(修士論文報告会):"Study on the mental lexicon of Chinese and Japanese bilinguals based on Stroop task"

    • 発表者:劉 夏彬(人間社会環境研究科/北京師範大学:二重学位プログラム)
    • 日時:7月23(月) 17:05-18:00頃
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  Cognitive science is about the information processing, in which involves the vision, the auditory sense and language. The standard Stroop task was put forward in 1935. Stroop task is to name the color words with the incongruent color ink. The interference score equals to the response time of the incongruent color word minus the response time of the color patch. The acknowledged achievement of bilingual Stroop task is that, 1) The between-language interference (BI) score could be larger than the within-language interference (WI) score. 2) The result of ideograph is different from the alphabetic writing.
       The method we used was bilingual Stroop task. The experiment one is about the high proficiency CL1 (Chinese as first language) - JL2 (Japanese as second language) bilingual, the experiment two is about the low proficiency CL1-JL2 bilingual, the experiment three is about the low proficiency CL2-JL1 bilingual.
       The experiment results showed that when responding language was first language (L1), within-language interference was greater than between-language interference for both high and low proficiency bilinguals. When responding language was second language (L2), WI was almost same as the BI for high proficiency bilinguals, while BI was larger than WI for low proficiency bilinguals. We also found that the response time would be longer for the synonym in the group of low proficiency CL2-JL1 bilingual.
       We concluded that the mental lexicon of the high CL1-JL2 is explained by the multiple access model, the low proficiency CL1-JL2 bilingual and the low proficiency CL2-JL1 bilingual are better understood with the word association model.  These inferences indicate that the beginning learners should adopt the concept mediation strategy to learn the vocabulary. The present study gave us advice about teaching Chinese as a second language.

    認知科学セミナー:「統合失調症における認知機能の主観評価と客観評価」

    • 発表者:蝦名昂大(医薬保健学総合研究科 臨床認知科学研究室)
    • 日時:7月9日(月) 18:15 - 19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  統合失調症では記憶,注意および実行機能をはじめとする認知機能障害が中核的な問題として指摘されてきた。また,統合失調症では病識の乏しさが臨床的に指摘されており,認知機能障害に対しても認識の低下が見られることが報告されている。最近の研究では,自身の認知機能障害に対する認識の低下だけでなく,認知機能障害を大きく捉えすぎてしまうことも指摘されており,客観的な評価と患者の主観的な評価のギャップが日常生活機能や機能的転帰と関連があることが示唆されている。これまでの先行研究からも,患者が主観的に自身の認知機能障害をどのように捉えているかは,社会復帰などの良好な転帰を考えるうえで重要であると思われる。本研究では広範囲に及ぶ客観的認知機能評価,認知機能障害に対する患者の主観評価および家族から見た評価の総合的な関連について検討した。

    認知科学セミナー:「経頭蓋電流刺激を用いた神経科学研究」

    • 発表者:木村 岳裕(金沢大学 国際基幹教育院 GS教育系准教授、金沢大学大学院 人間社会環境研究科 地域創造学専攻)
    • 日時:6月25日(月) 18:15-19:30
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  経頭蓋直流刺激(tDCS; transcranial direct current stimulation)は頭皮上から運動野を刺激し、皮質の興奮性を調整できる手法として2000年にNitsche and Paulusによって開発された。陽極は興奮性、陰極は抑制性の調整作用があるとされ、運動野や、視覚野など様々な領域での適用がされている。2010年頃から刺激周波数を調整した経頭蓋交流刺激(tACS; transcranial alternate current stimulation)を用いて、神経細胞が持つ固有リズムの調査も進められている。自身の研究紹介や、近年の動向なども紹介したい。

    認知科学セミナー:「頭部の支えによって、舌舐めが減り、視線が安定し、上肢の操作が向上した事例の考察」

    • 発表者:武田俊男(金沢大学大学院 人間社会環境研究科/都立大泉特別支援学校)
    • 日時:6月7日(月) 18:15-19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    •  ヘッドサポートによって視線が安定することで、舌舐めの自己刺激行動には入らなくなってきた様子について、前回までいたしました。しかし、視線の活動がすぐに舌舐めには入らなくても、頭部の保持が行われない時には、言語指示への反応などがクリアではない様子があります。
       頭部を人の手で介助をした場合には、姿勢保持に介助が入ることで、視線が対象を捉えづらい様子が観察されています。スパイダーによるヘッドサポートは、頭部保持を一定のレベル随意的制御が、視線で対象に向ける、注視し続けるために必要な条件となるのではないという点について述べたいと思っております。

    認知科学セミナー:「不一致な視聴覚情報は分裂・融合錯覚に異なる影響を及ぼす」

    • 発表者:朝岡 陸(金沢大学人間社会環境研究科博士研究員)
    • 日時:5月21日(月) 18:15-19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    • 一回のフラッシュに聴覚刺激を二回併せて提示すると,二回フラッシュするように見え(分裂錯覚),二回のフラッシュに音を一回併せて提示すると,一回フラッシュするように見える(融合錯覚)。これらの錯覚は聴覚刺激の代わりに視覚刺激や視聴覚刺激を提示しても生起する。本研究では,ターゲットである視覚刺激,ターゲットではない視覚刺激(誘導刺激),聴覚刺激が異なる回数提示された場合,分裂・融合錯覚が生起するかどうか検討した。その結果,視覚刺激と誘導刺激が一回,聴覚刺激が二回提示される条件では,分裂錯覚が生起しなかった。しかし,視覚刺激と誘導刺激が二回,聴覚刺激が一回提示される条件では,融合錯覚が生起した。よって,数的に不一致な視聴覚情報は分裂・融合錯覚に異なる影響を及ぼすことが示された。この結果について感覚間・感覚内群化の観点から説明を試みる。

    認知科学セミナー:「アルツハイマー病モデルラットに対する記憶障害と精神症状の検討」

    • 発表者:須田桃香 (金沢大学人間社会環境研究科博士前期課程1年)
    • 日時:5月14日(月) 18:15-19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    • アルツハイマー型認知症とは,記憶障害と不安などの精神障害を伴う病気で,加齢とともに罹患リスクが高まる病気である。高齢化に伴いその罹患者は増加しているが,治療法は未だに確立されていない。治療法確立のためにはモデル動物の存在が不可欠であり,アルツハイマー病のモデル動物も脳を損傷し症状を模した動物がよく用いられてきた。しかし,そのモデル動物に対して中核症状となる記憶障害の研究はあるが,不安反応などへの精神障害を検討した研究は少ない。そこで本研究では,アルツハイマー病の症状を模すと言われているモデルラットを作成し,空間記憶・非空間記憶・不安反応をそれぞれ測定する課題を用いてその妥当性を検討した。結果として,アルツハイマー病のモデルラットでは,空間記憶課題? ?成績低下が認められたが,非空間記憶課題では成績低下が認められなかった。また,不安反応もモデルラットと統制群で違いが認められなかった。しかし,不安反応測定課題と空間記憶課題中のモデルラットは,統制群と比較して高い衝動性が誘引されているような行動が観察された。そのため,アルツハイマー病モデルラットと衝動性の関連についてさらなる検討が必要であろう。

    認知科学セミナー:"The relation of physical activity to neuroelectric indices of interference processing and motor preparation in young adults"

    • 発表者:Mohamed Aly, PhD student, Graduate school of human and social environmental studies.
    • 日時:5月7日(月) 18:15-19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    • The fast-growing domain of exercise and cognition studies suggest that physical activity (PA) have a positive impact on cognitive functions. Electroencephalogram (EEG) studies, specifically those using event-related brain potentials (ERPs), have played a key role in the development of this research field. Although the Stroop task has been widely examined in different populations using ERP technique, to date, no previous research has examined the relation of PA to the interference processing using Stroop task with younger adults, nor N4 component has been observed. Thus, this experiment may contribute to deepening our understanding of the relation of PA to neuroelectric indices of interference processing and motor task preparation within young adults. Several hypotheses will be tested in this experiment within the context of a modified Stroop task. First, it will examine whether PA would influence behavioral performance (i.e., RT, response accuracy) during a task requiring a variable amount of interference control. Second, it will examine whether PA will influence neuroelectric concomitants of cognition. It is hypothesized that the change in N4 during interference processing may be smaller in less active participants compared to the highly active. Also, the change in CNV amplitude during movement preparation maybe smaller in less active participants compared to the highly active. Thus, N4 and CNV components will be examined to investigate the relation of PA to interference processing and better determine the relation of PA to motor task preparation during the performance of congruent and incongruent word-color interference task trials.

    認知科学セミナー:「脳活動による統語処理優位性仮説の検討 -日本語の場合-」

    • 発表者:趙 立翠(金沢大学人間社会環境研究科博士後期課程)
    • 日時:4月23日(月) 18:15-19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    • 統語処理優位性仮説は,統語処理が成功しないと意味処理が行われないとする言語処理モデルであり,ドイツ語,オランダ語などのインドヨーロッパ語族の言語を対象とする研究に基づく仮説である(Frazier & Fodor, 1978; Frazier,1987; Friederici,2002)。本研究では,日本語においてこの仮説の検討を行った。実験では,参加者は,意味的に逸脱している句(V-SEM,例:音楽を煮ます),統語的に逸脱している句(V-SYN,例:チームが組みます)を読んで再認した。実験の結果,V-SEMを呈示するとき,意味処理に関わる左中側頭回の活性化のみではなく,統語処理に関わる左下前頭回の活性化も観察された。それに対し,V-SYNを呈示するとき,統語処理に関わる左下前頭回の活性化も意味処理に関わる左中側頭回の活性化も観察できなかった。これらの結果は,日本語においても統語処理が意味処理より優位である可能性を示唆する。

    認知科学セミナー:「VR環境に付加するモーション・ブラーが酔いに与える影響」

    • 発表者:LI XINHUA(リ シンカ, 金沢大学大学院新学術創成研究科 融合科学共同専攻)
    • 日時:4月16日(月) 18:15-19:15
    • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
    • CG映像と現実世界は成り立ちからして違い、自然視と異なった見え方となり、CG映像が不自然に見える。また、人間の特性への考慮が不十分な人工仮想環境空間(VR)が殆どであるため、利用時に強い違和感があり、眼精疲労、場合によってはめまいや頭痛、吐き気などの「酔い」が起こる問題が生じている。本研究では、極めて身近なVR映像酔いの事例を分析した上で、VR環境における映像酔いの解決すべき課題について考察し、モーション・ブラーの効果を究明することを目的とする。具体的には、視覚における運動の知覚に注目し、運動の視知覚に対して変化を与えるインタフェース設計のための知見を獲得することを目標として、視覚刺激の周期的なモーション・ブラーの制御、という手法を用いて得られる視知覚特性を調べた。実験を通じて、HMD映像に付加するモーション・ブラーによって、VR環境における吐き気を減少させ得ることがわかった。

    認知科学教育

    GS科目「価値と情動の認知科学」

    内容

    1、知覚の潜在性

    私たちは当たり前のように見聞きして生活している。しかしそれが何であるか,どのようなモノかを認める(認知する・知覚する)ときには,自分でも気づかないうちに自身の経験や情動,価値観などが大きく影響している。

    2.記憶における潜在性

    私たちは経験した様々な事柄を記憶しながら生活しているが,知識や思い出のように本人に意識される記憶だけでなく,本人には意識されない記憶も私たちの行動に影響を与えている。鮮明に憶えているはずの記憶が実はまったく正しくないこともある。記憶の基本的な仕組みと性質について,具体的な研究例や実験を交えて解説する。

    3.思考・判断における歪み

    私たちは様々な「認知バイアス」をもっている。それらが私たちの行動判断や価値判断を左右する例を挙げ,それぞれの状況における人々の行動について考える。

    4.情動性の自己認識の潜在性

    私たちは自分に生じた情動反応の「原因」が何であるかを自分自身でよく理解していると信じて生活している。しかし,実際には,意識されないレベルで解釈され,変容された結果が自覚されているに過ぎない。これらの自覚されないレベルでの処理が私たちの判断や行動に与える影響について,具体的な研究例を用いて解説する。

    5. ヒトは言語をどのように使っているか

    ヒトは言語を短時間のうちに高速に処理することで円滑なコミュニケーションを行っている。このとき、言語を自律的なものとして処理することもあれば、周辺依存的なものとして処理することもある。言語処理の自律的な側面とコンテクスト依存的な側面を考えるために、脳科学的、心理学的ないくつかの事例を紹介し、ヒトは言語とどのように向き合っているのかについて考える。

    6. 心の発達

    ヒトは生まれながらにして大人としてのヒトの心を備えているわけではない。ヒトの心は、成長の過程で発達するのである。例えば、ヒトの言語は音と意味の間の関係を、擬音語・擬態語に見られるような直感的に結びつけることが可能な音象徴的なものから、犬という動物について「犬」と言ったり "dog" と言ったりするような、直感的な結びつきが不可能なものに拡張することで、膨大で複雑な情報を処理するシステムであることができる。ヒトは、成長するにしたがって、人の心の内部を理解できることができる。このような心の発達のおかげで、私たちは言語を使い、複雑な社会システムを作り上げ、そこで生きる動物たり得ているのである。

    7.人間の進化と価値・情動・理性・道徳

    私たちの心はどのような仕組みで、あることを道徳的に正しいとか不道徳であると感じるのだろうか。いくつかの実験や研究についての考察を通じて、私たちが、すべて理性(論理)でもって判断を下しているのではないし、必ずしもすべてのことに100%の正しさというものなどないのだ、ということを理解する。人間が複雑な社会を構成する動物である上で重要な役割を果たす、道徳や感情が人類の進化の過程を通じて出来上がってきたという観点から、 私たち人間の本性について考えてみる。

    8. まとめの討論と試験