2019年度の活動報告

認知科学シンポジウム

金沢大学認知科学シンポジウム:「認知機能と言語コミュニケーションの発達」

  • 3/5時点の情報
    新型コロナウィルス問題のために一部プログラムを中止し、【規模を縮小して開催】することとなりました。

    • 1:会の様子をYouTubeライブで配信する計画です。ライブ用URLはあらためてお知らせしますが、配信者名はCogSci kanaZW, ライブ名はkanazawa cogsci 2020となる予定です。

  • 3/2時点の情報
    新型コロナウィルス問題のために一部プログラムを中止し、【規模を縮小して開催】することとなりました。変更点の概要は下記の通りです。今後の計画の変更も当ページから発信いたします。

    • 1:スケジュール:シンポ2(「言語コミュニケーションの研究者と実践者の連携:大学が地域に貢献するために」)を中止します。
    • 2:参加者: 大学・研究所に所属する方のみのクローズな会とさせていただきます。なお,これらの方でも以下に該当する方は来場をご遠慮ください。
      ◎健康がすぐれない方。咳や発熱等のある方。
      ◎感染者および感染の疑われる人と濃厚接触した可能性のある方。
      ◎2週間以内に,不特定多数の集まる閉鎖空間に長時間滞在した方。

  • 日時:3月6日 9:55~16:00
  • 場所:金沢大学角間キャンパス 人間社会第1講義棟 301講義室
  • 主催:認知科学研究グループ;部局主導型研究課題「コミュニケーション行動の認知プロセスと、その発達、学習、障がい支援の研究」
  • 後援:金沢大学人間社会研究域
  • チラシ

9:55    開会の辞・シンポジウム趣旨説明

小島治幸(金沢大学人間科学系)

10:00-12:00  研究発表セッション:研究教育活動の現状報告

小島治幸(金沢大学人間科学系)「視知覚処理における神経経路と脳活動特性」

朝岡陸(金沢大学人間科学系)「視覚情報処理の大脳半球機能差」

谷内通(金沢大学人間科学系)「両生類における食物嫌悪学習の可能性」

矢追健(金沢大学子どものこころの発達研究センター)「『自分の名前』は特別か-閾下呈示による自己参照効果-」

池田尊司(金沢大学子どものこころの発達研究センター)「親子関係における運動同期と養育態度」

稲田祐奈(金沢大学国際基幹教育院)「極低出生体重児の乳幼児期の言語発達」

武居渡(金沢大学学校教育系)「手話版語流暢性検査の開発」

13:30-15:45  講演&シンポジウム1「言語の発達と獲得」

小林哲生先生(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)「幼児の語彙獲得:大規模データ解析とその応用」

大滝宏一先生(金沢学院大学)「通言語的に見るWH疑問文の獲得」

安永大地(金沢大学歴史言語文化学系)「幼児による名付けの音象徴性:予備的検討」

16:00頃  閉会

認知科学セミナー

認知科学セミナー:

  • 発表者:須田桃香(金沢大学人間社会環境研究科 博士課程前期2年)
  • 日時:2月5日(水)16:30-17:30
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 我々の先行研究は定型発達(TD)の乳幼児男女を対象とし,対提示される顔と幾何学図形への注視時間を測定して,男女間で比較した。その結果,TD男児は女児よりも顔領域への注視割合が低く,幾何学図形刺激への注視割合が高くなることが示された。本研究の実験1では大学生でもこの性差がみられるのか,また,性に関与するホルモン(テストステロン)がこの現象と関わるのか,乳幼児を対象とした実験とほぼ同様の手続きを用いて検討した。その結果,大学生では注視割合における性差は観察されず,テストステロン量の高低群間で注視時間は変わらなかった。しかし,男性ではAQ得点が高くなるほど幾何学図形への注視時間が長くなった一方,女性ではその二者間に相関はないことが示された。実験2では,幾何学図形と顔に含まれるどの要因が注視時間の性差に寄与するのか,乳幼児を対象として検討した。規則性や生物性を含むまたは含まない動画像を対提示して,自由観察させた。その結果,非生物性刺激において男児の注視時間が長くなることが示され,注視における性差に非生物性が寄与することが示唆された。

認知科学セミナー:「人の移動と言語変化に関する研究―チュルク諸語を対象として―」

  • 発表者:菅沼健太郎(金沢大学歴史言語文化学系)
  • 日時:12月23日(月)
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  •  交易や移住など、世界では現在に至るまで人々の移動が盛んに行われてきた。そのような移動により母語の異なるもの同士が接触する際、互いの、あるいはどちらかの言語に影響を与え、当該の言語が変化することがある。このような言語接触によりどのような言語変化が生じるのか、そしてその変化の方向に通言語的特徴があるのかを明らかにすることは、ヒトの言語の一側面について知る機会となりうる。発表者はトルコ語などのチュルク諸語を対象としながら、このような移動によって生じる言語変化に関連した諸現象について研究を行ってきた。本発表では発表者がこれまで行ってきた研究の成果を紹介したいと考えている。具体的には、i.トルコ語とウイグル語を対象とした固有語と借用語の分節音的特徴(子音や 母音などに関わる特徴)の違い、ii.トルコ語とウイグル語を対象とした固有語と借用語の超分節音的特徴(アクセントに関わる諸特徴)の違い、iii.エスキシェヒル・カラチャイ語における伝聞形式の借用、の 3 つについて述べる。

認知科学セミナー:「記憶負荷の異なる条件における指示忘却手続きを用いた記銘方略の検討」

  • 発表者:田中千晶(金沢大学人間社会環境研究科 博士課程後期3年)
  • 日時:11月19日(火) 17:00 - 18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 指示忘却とは,後のテストを信号された記銘項目と比較して,後のテストの不在を信号された忘却項目の記憶成績が低下する現象のことである。指示忘却が生じるメカニズムの1つとして,忘却項目に対するリハーサルの停止により,忘却項目から記銘項目へと記憶資源の再配分がなされることが仮定されている。本研究は,単語数の異なる「長リスト」と「短リスト」の2種のリストを用いた指示忘却手続きにより,記憶負荷の大小に応じて,ヒトが記憶資源の再配分を柔軟に制御するのかを検討した。長リスト群・短リスト群ともに記銘項目と忘却項目で有意な差が認められたことから,忘却項目から記銘項目への記憶資源再配分が行われたと示唆される。また,長リスト群のほうが,記銘項目と忘却項目の正再生率の差が大きかったことから,記憶負荷が大きいほど記憶資源の再配分を行うという予測と合致する傾向が認められた。

認知科学セミナー:"Neural correlates of color harmony(色彩調和の神経基盤)"

  • 発表者:池田尊司(金沢大学子どものこころの発達研究センター)
  • 日時:8月5日(月) 18:15~
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • Observing paired colors with a different hue, chroma, and/or lightness engenders pleasantness from such harmonious combinations; however, negative reactions can emerge from disharmonious combinations. We assessed brain regions activated by harmonious or disharmonious color combinations in comparison to other stimuli using fMRI. Results showed that the left medial orbitofrontal cortex and left amygdala were activated when participants observed harmonious and disharmonious stimuli, respectively. These findings suggest that color disharmony may depend on stimulus properties and more automatic neural processes mediated by the amygdala, whereas color harmony is harder to discriminate based on color characteristics and is reflected by the aesthetic value represented in the medial orbitofrontal cortex.
  • 異なる2色を組み合わせて配色刺激を作ると、組み合わせ方によって調和感または不調和感を生じさせることができる。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によってそれぞれの配色刺激に反応する脳領域を調べたところ、調和配色では左前頭眼窩皮質内側部の活動が見られた。また、不調和配色では左扁桃体の活動が有意に高かったことと、配色刺激そのものの心理物理的特徴が顕著であったことから、何らかの生物学的評価基盤があることが伺える。

認知科学セミナー:「極低出生体重児における縦断的発達特徴の検討」

  • 発表者:稲田祐奈(金沢大学国際基幹教育院)
  • 日時:7月22日(月) 18:15~
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 早産児や低出生体重児は後の発達障害や精神疾患のリスクが高く,障害が見られなくても学齢期に低IQを示す児が多いなど,出生直後だけではなく各発達段階において支援が必要となることが多い。本研究では低出生体重で生まれた児のうち,1500g未満で出生した極低出生体重児の発達特徴について縦断的に検討した。Bayley発達検査で評価できる認知,言語,運動の3領域の比較をする他,対象児を縦断的な発達特徴から3群に分け,それぞれの特徴を細かく検討した結果について発表する。

認知科学セミナー:"Are bowing faces attractive? Movements of facial images impact theirattractiveness."

  • 発表者:菊谷まり子(国際基幹教育院)
  • 日時:7月1日(月) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • Facial averageness, symmetry, and sexual dimorphism are regarded as facial features which enhance attractiveness. In addition to those unchangeable traits, some changeable and more dynamic cues such as facial movements are reported to increase attractiveness of faces.The present study focused on movement of bowing, which is an extremely common non-verbal cues used among Japanese, to investigate whether bowing movement increases attractiveness of facial images. Images of male faces were artificially manipulated (rotated) to create movements assimilating bowing and Japanese female participants rated attractiveness of images with or without the movement. As a results, bowing faces were consistently rated as more attractive than static faces.
  • 魅力的な顔の特徴として、平均性や対称性、性的二形などが挙げられるが、特定の顔の動きも魅力の増幅に貢献することが見出されている。本研究では顔の動きとしてお辞儀を取り上げ、お辞儀をする顔は動かない顔に比べてより魅力的に見えるのかどうかを調べた。実験では顔の静止画を回転させることによってお辞儀の動きを表現した刺激が用いられた。刺激は全て男性の顔で、それを日本人の女性参加者が魅力評定した。結果では一貫してお辞儀をする顔の方が静止している顔よりも魅力が高く評定された。

認知科学セミナー:"Moving forward in the study of mind wandering: A dynamic process-based perspective"

  • 発表者:Manila Vannucci(epartment of Neuroscience, Psychology, Drug Research and Child Health (NEUROFARBA)University of Florence, Italy)
  • 日時:6月17日(月) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • While reading a book, attending a lecture or driving, there may be moments when our attention spontaneously drifts away from the primary task and our mind starts wandering elsewhere towards internal thoughts, such as personal memories and prospective thoughts, whose content is unrelated to the ongoing task. We refer to this phenomenon as mind wandering (MW). Our understanding of the neurocognitive process of MW has dramatically increased over the past decade. However, up until recently, most research on MW has investigated this mental state from a static content-based perspective, by assessing whether task-unrelated thoughts are taking place during a task. A key challenge still facing research is the identification of the processes and events that prompt the initial occurrence of MW (the onset) as well as its maintenance-continuity over time: Why does the mind start wandering at that specific moment? And how does this mental state arise and unfold over time? In the seminar I will briefly review the state-of-the art in the field, and present a series of studies carried out by our research group, aimed at investigating the ongoing thought dynamics of MW, by combining behavioural techniques and pupillometry. The relevance of this dynamic process-based perspective for our understanding of how human attention and thought work will be discussed.

認知科学セミナー

  • 発表者:西川未来汰(人間社会環境研究科博士後期3年)
  • 日時:6月3日(月) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • Flaherty and Checke(1982)が発見した予期的対比効果は再現に失敗した報告も多く(e.g., Lucas & Timberlake, 1992),その生起にかかわる規定因は明らかにされていない。しかし,予期的対比の実験手続きを用いたこれまでの研究では,予期的対比効果だけでなく,先行溶液に対する好みの条件づけという予期的対比効果と拮抗する現象が生じることが示唆された。本研究では,文脈手がかりによりサッカリン溶液のCSとしての働きを隠蔽し,予期的対比効果の規定因となるかどうかの検討を目的とした。結果として,文脈手がかりにより,好みの条件づけにおけるスクロース(US)のCSとしてのサッカリンの隠蔽を生じさせ,安定して予期的対比効果を生じさせることが可能であると示した。その一方で,実験者による他文脈への移動が摂取量に影響を与える可能性も示された

認知科学セミナー:「自閉スペクトラム障害と定型発達者の視線傾向の検討」

  • 発表者:須田桃香(人間社会環境研究科博士前期課程2年)
  • 日時:5月20日(月) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 自閉スペクトラム症(ASD)は,脳の機能不全によってコミュニケーションに障害が生じる症状を特徴としている。近年では, ASD者の視線傾向がTD者と比較して特異であることが示されている。例えば,Pierce et al.(2011)や Lijuan et al.(2014)は,参加者に人刺激と幾何学図形刺激を対呈示し,視線追従装置を用いて注視割合を検討した結果,ASD者はTD者より幾何学図形を注視することを示した。これらの結果から,視線活動に着目したASDのスクリーニングに関する研究が進んできている。

    このようなASD者の認知特性は,性別との関係も指摘されており,「 TD男性に特徴的な認知機をより極端にしたものがASD者の認知特徴である」という主張がされている(Baron-Cohen, 2002)。

    本研究ではASD者とTD者の性別を考慮した視線傾向の検討を行い,ASD者とTD者の視線傾向の差異を検討することを目的とした。方法として,参加者に人刺激と図形刺激を対呈示し,視線を追従した。この時,参加者は呈示された両刺激を自由に見ることができた。

    結果として,ASD者は幾何学図形を顔領域よりも注視するという傾向は認められなかった。また,TD女性と比較してASD者は顔領域への注視が短く,幾何学図形への注視が長いことは示されたが,TD男性との間に有意差は認められなかった。

    本研究の結果は,Pierce et al.(2011)とLijuan et al.(2014)のものとは一致しなかった。これは本研究で対象としたASD者の年齢と関係していると考えられる。Lijuan et al.(2014)は年齢と刺激の複雑性が注視傾向に影響を及ぼすという指摘をしている。今回扱ったASD者は平均年齢が6歳であったため,注視割合に影響が生じたのではないかと考察する。しかし,ASD者が顔領域を注視する傾向を示したことから,ASD者も年齢と共に社会性を発達させていることを示唆していると考える。

認知科学セミナー:「顔と全身像の比較による人物同定―事象関連電位による顔知覚の時系列的処理の検討―」

  • 発表者:蒋 佩倫(人間社会環境研究科博士前期課程1年)
  • 日時:4月22日(月) 18:15 - 19:15
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)

認知科学教育

GS科目「価値と情動の認知科学」

内容

1、知覚の潜在性

私たちは当たり前のように見聞きして生活している。しかしそれが何であるか,どのようなモノかを認める(認知する・知覚する)ときには,自分でも気づかないうちに自身の経験や情動,価値観などが大きく影響している。

2.記憶における潜在性

私たちは経験した様々な事柄を記憶しながら生活しているが,知識や思い出のように本人に意識される記憶だけでなく,本人には意識されない記憶も私たちの行動に影響を与えている。鮮明に憶えているはずの記憶が実はまったく正しくないこともある。記憶の基本的な仕組みと性質について,具体的な研究例や実験を交えて解説する。

3.思考・判断における歪み

私たちは様々な「認知バイアス」をもっている。それらが私たちの行動判断や価値判断を左右する例を挙げ,それぞれの状況における人々の行動について考える。

4.情動性の自己認識の潜在性

私たちは自分に生じた情動反応の「原因」が何であるかを自分自身でよく理解していると信じて生活している。しかし,実際には,意識されないレベルで解釈され,変容された結果が自覚されているに過ぎない。これらの自覚されないレベルでの処理が私たちの判断や行動に与える影響について,具体的な研究例を用いて解説する。

5. ヒトは言語をどのように使っているか

ヒトは言語を短時間のうちに高速に処理することで円滑なコミュニケーションを行っている。このとき、言語を自律的なものとして処理することもあれば、周辺依存的なものとして処理することもある。言語処理の自律的な側面とコンテクスト依存的な側面を考えるために、脳科学的、心理学的ないくつかの事例を紹介し、ヒトは言語とどのように向き合っているのかについて考える。

6. 心の発達

ヒトは生まれながらにして大人としてのヒトの心を備えているわけではない。ヒトの心は、成長の過程で発達するのである。例えば、ヒトの言語は音と意味の間の関係を、擬音語・擬態語に見られるような直感的に結びつけることが可能な音象徴的なものから、犬という動物について「犬」と言ったり "dog" と言ったりするような、直感的な結びつきが不可能なものに拡張することで、膨大で複雑な情報を処理するシステムであることができる。ヒトは、成長するにしたがって、人の心の内部を理解できることができる。このような心の発達のおかげで、私たちは言語を使い、複雑な社会システムを作り上げ、そこで生きる動物たり得ているのである。

7.人間の進化と価値・情動・理性・道徳

私たちの心はどのような仕組みで、あることを道徳的に正しいとか不道徳であると感じるのだろうか。いくつかの実験や研究についての考察を通じて、私たちが、すべて理性(論理)でもって判断を下しているのではないし、必ずしもすべてのことに100%の正しさというものなどないのだ、ということを理解する。人間が複雑な社会を構成する動物である上で重要な役割を果たす、道徳や感情が人類の進化の過程を通じて出来上がってきたという観点から、 私たち人間の本性について考えてみる。

8. まとめの討論と試験