2017年度の活動報告

Kanazawa Hokuriku認知科学シンポジウム

Kanazawa Hokuriku認知科学シンポジウム「となりの認知科学」

  • 日時:3月9日(金)9:55-17:00
  • 場所:北陸先端科学技術大学院大学 K1・2講義室 (知識科学系講義棟Ⅰ, 1F)

    「近くに,こんな研究をしている人がいた!」

    案外身近な近隣の大学にも自分の研究に関連する研究や自分の知らない様々な研究をおこなっている人たちがいます。今回のシンポジウムでは,金沢・石川地域で活躍する認知科学/知識科学の研究をフィーチャーし,今後の研究交流や共同研究を活発化させることを目指します。

特別企画シンポジウム「認知科学とロボティックスの未来」

  • 趣旨:認知科学はこれまでも人工知能やロボット研究との関わりの中で研究を進展させてきました。たとえば,認知科学ではその創成期からパターン認識や言語処理,運動制御といった認知的諸機能の計算モデル構築の試みが盛んに行われました。しかしその後,コンピュータの高速大容量化や先端技術の進歩は認知科学のテーマや研究方法に大きな影響を与えてきました。中でも,深層学習を取り入れたニューラルネットワークの開発や,認知神経科学において蓄積された知見の導入などによって,近年の人工知能やロボティックス(ロボット学)は目覚ましく発展してきています。認知科学は,人間のみならず人工知能やロボットの認知の問題にどのように取り組み,どのように研究してゆくことになるのでしょうか。  特別企画シンポジウム「認知科学とロボティクスの未来」では,日本のロボティックスを牽引する大阪大学教授浅田稔先生にロボット工学の現在をご紹介いただくとともに,認知科学への要望や期待をお話いただきます。そして,認知科学会を代表する研究者の方々を交えて認知科学とロボット学の研究の接点や課題について議論し,双方の研究の未来や今後の方向性について考えます。
  • 基調講演者:浅田稔(大阪大学)
  • 指定討論者:植田一博(東京大学),鈴木宏昭(青山学院大学),永井由佳里(北陸先端科学技術大学院大学)
  • 企画:小島治幸(金沢大学)

    基調講演:「現代AI革命は,ロボットの認知能力をもたらすか?」

  • 講演者:浅田稔(大阪大学)
  • 概要:深層学習に代表される現代AIの革命は,Big Dataに支えられ,画像/音声などの感覚情報処理から,言語処理に至る過程において,過去とは大いにことなる高いパフォーマンスを見せつつある.これらの量による変化が質の変化をもたらす保証はない.本講演では,ロボットの身体のポテンシャルこそが,質の課題,すなわち心的機能の発達を促すとの仮説から,認知発達ロボティクス,さらには構成的発達科学への道筋を明らかにし,身体性認知科学の将来を議論する.

  • 主催:日本認知科学会第34回大会実行委員会
  • 共催:金沢大学・北陸先端科学技術大学院大学
  • 協力:日本ロボット学会
  • 大会HP

日本認知認知科学会第34回大会

  • 日時:9月13日(水)-15日(金)
  • 場所:金沢大学角間キャンパス

研究会

認知科学セミナー:「知覚-運動スキルの熟達化,およびプレッシャー下における熟達化したスキルの崩壊メカニズムに関する運動心理学研究」

  • 発表者:村山孝之(国際基幹教育院)
  • 日時:2月26日(月)17:30-18:30
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • これまでに行ってきた運動心理学研究と現在計画中の研究プロジェクトについて紹介する予定.知覚-運動系の協応関係に着目したうえで,スポーツのみならず,医療,教育,交通など多様な社会生活場面への応用可能性について議論できれば幸甚です. 1:プレッシャー下で生じる運動パフォーマンス崩壊のメカニズムとそのコアファクターとは?2:プレッシャー条件,錯視条件下における視線行動,空間知覚,知覚-運動スキルの関係性.3:視線行動の学習が知覚-運動スキルの学習に及ぼす影響とは?4.現在計画・進行中の研究プロジェクト紹介,関連研究の研究動向(Quiet EyeおよびQuiet Eye Trainingと知覚運動制御,DCD児を対象とした知覚トレーニングに関する研究など)

認知科学セミナー:"Effects of Physical Activity and Exercise on Event-Related Brain Potentials: a review"

  • 発表者:Mohamed Aly
  • 日時:2月26日(月)16:00-17:20
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)

認知科学セミナー:「課題無関連な刺激が時間情報処理に及ぼす影響?知覚的群化に着目した検討」

  • 発表者:朝岡 陸 (東北大学大学院文学研究科・日本学術振興会)
  • 日時:2月15日(木)16:30?18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 私たちは日常的に時間に関する判断を無意識的,意識的に行っている。しかし,それがどのようになされているのかという問題はまだ不明瞭な部分が多い。この問題に関して,心理学創設当初からどのような要因がどのようにヒトの時間情報処理に影響するのかというアプローチを通して検討されてきた。ここでは,課題無関連な刺激が視覚の時間情報処理に及ぼす影響と,その効果を調整する要因として知覚的群化に着目して検討を進めた研究を3つ紹介する。

    研究1では,ターゲットの前後に課題無関連な視覚刺激 (前後刺激) が提示された場合,その知覚時間がどのように変容するのかという問題を検討した。研究1実験1,2,3でそれぞれ,知覚的群化の規則である時間的近接性,空間的近接性,形態的類似性の効果について検討した。研究1実験1の結果,ターゲットと前後刺激の刺激間間隔 (Inter-Stimulus Interval: ISI) が0 msの条件でのみ,ターゲットのみが提示される条件よりも,知覚時間が短縮するという新たな現象を発見した (前後刺激による時間短縮効果)。研究1実験2の結果,前後刺激とターゲットが同位置に提示された時のみ,前後刺激による時間短縮効果が生じることが示された。研究1実験3の結果,前後刺激による時間短縮効果量が,ターゲットと前後刺激の形態的類似性の高低に依存して変わることが示された。よって,前後刺激が知覚時間に及ぼす影響は知覚的群化の規則に調整されることが示唆される。

    研究2では,前後刺激による時間短縮効果が多感覚的事態でも生起するかどうか検討した。課題無関連な聴覚刺激をターゲットである視覚刺激の前後に提示して,研究1実験1と同様の検討を行った結果,ISI 0 ms条件とISI 200 msでは,聴覚刺激が提示されない条件と比較して,それぞれ知覚時間の短縮効果と伸長効果が生起した。また,これら知覚時間の変容現象は視覚刺激と聴覚刺激が知覚的に群化されにくい状況では生起しなかった。よって,聴覚刺激による時間伸長,短縮効果は,視聴覚間で生じる知覚的群化に基づくことが示唆される。

    研究3では,聴覚刺激によって生じる錯視と知覚的群化の関連について検討した。一回のフラッシュに音を二回併せて提示すると,二回フラッシュするように見え(分裂錯覚),二回のフラッシュに音を一回併せて提示すると,一回フラッシュするように見える(融合錯覚)。これらの錯覚は音の代わりに視覚刺激や視聴覚刺激を提示しても生起する。本研究では提示回数が異なる,ターゲットでない視覚刺激(誘導刺激)と音刺激をほぼ同時に提示し,それらがどのように視覚刺激の知覚提示回数に影響するのかを検討した。その結果,視覚刺激と視覚誘導刺激が一回ずつ,音刺激が二回提示される条件では,分裂錯覚が生じにくいが,視覚刺激と視覚誘導刺激が二回,音刺激が一回提示される条件では融合錯覚が生起しやすいことが示された。これらの結果は,視覚内で生じる知覚的群化が分裂錯覚と融合錯覚に異なる影響を及ぼすことを示唆する。

認知科学セミナー:「共起表現の心的処理に関する研究 - 産出課題および個人差について」

  • 発表者:趙 立翠(人間社会環境研究科博士課程D2)
  • 日時:1月29日(月),16:30?(5限)
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • ここ何十年,言語習得に関する理論は,伝統的な生成文法から用法基盤モデルへ変化している。後者と前者の主な違いは単語より大きな言語単位(つまり,共起表現)に頻度効果があることを認めているかどうかである。実験研究では,単語とは同じく,共起表現の処理にも頻度効果があると証明されつつある。しかし,これまでの研究はほとんど言語の理解面に注目し,共起表現の産出を重要視しなかった。また,第二言語学習者の個人差に影響する要因に注目しなかった。本発表では,第二言語学習者の産出課題における共起表現の頻度効果の有無を検証し,その個人差に影響する要因について研究する方法を提案する。

認知科学セミナー:「本校におけるマイトビー (視線入力用コンピュータ)の活用事例から ー重度・重複障害児が視線入力を活用する条件の考察ー」

  • 発表者:武田 俊男(人間社会環境研究科、東京都立大泉特別支援学校)
  • 日時:12月28日(木)16:30 ? 18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 自身で身体を動かす事ができない重度・重複障害児にとって視線入力によるコンピュータを操作する事は新たな表現手段である。本校にてマイトビー(視線入力様コンピュータ)を導入し、11名の自身で身体を動かす事が出来ない生徒の学習に使用している。今回はその中から特徴的な様子を示す3名の生徒活用の状況を取り上げ、視線入力を活用する為に重要な点について考察したものを発表する。

認知科学セミナー:"Educating Mindfulness Exercise in Selected Training Protocols of athletes ? Effects on Physical Performance and (Neuro) Cognitive Processing"

  • 発表者:Mohamed Aly(D1)
  • 日時:11月2日(木)17:00-18:30
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • In this research proposal, we shed light on how mindfulness-based training (MBT) could affect cognitive and processing functions; and Physical performance. This project will investigate the effects of mindfulness exercise on human cognitive through measuring P300 event-related potentials (ERPs) which are extracted from the electroencephalogram (EEG). There are 45 subjects will participate in this research. They will be divided into three groups (one experimental and two controls), each group will consist of 15 subjects. The experimental group is athletes who will be subjected to mindfulness exercise. The first control group is athletes; the second group is Non-athletes who do not practice any physical exercise or participate in club sports in college. Control groups will not be subjected to mindfulness exercise. ERPs and Physical Performance will be measured for the three groups. Then the ERPs will be measured once again for the experimental group after mindfulness training, and the first control group. The project will indicate whether there is an impact on cognitive functions and physical performance of young athletes as a result of mindfulness exercises. Investigation the findings of MBT is a rapidly emerging field of neuroplasticity that will make us more concerned with the cognitive mechanism in mindfulness before the competition which may result in achieving new records by professional players. In addition to, the comparison between the experimental group and the second control group may illustrate the cognitive changes, which may happen through practicing sports regularly.

認知科学セミナー:「日本語学習者のコロケーション処理」

  • 発表者:趙立翠(D2)
  • 日時:6月28日(水)16:30-18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 本研究では,近赤外分光法を利用して,日本語のコロケーションを処理する時に,中国人日本語学習者が日本語母語話者とはどんな違いがあるかを探求した。参加者の課題はコロケーション,自由結合,意味的に逸脱している句の3種類の刺激を黙読して日本語において自然かどうか判断することであった。課題遂行中の参加者の脳活動を計測して分析した結果,母語話者は,コロケーションと自由結合を処理する時の活性チャンネルの数がほぼ同じく,そしてコロケーションを統語分析しなかったのに対し,自由結合を統語分析した。学習者は,コロケーションを処理する時の活性チャンネルの数が自由結合より多かった。そして,コロケーションも自由結合も統語分析した。これらの結果から,母語話者は全体的にコロケーションを処理するのに対し,学習者はコロケーションを分析的に処理していること,及び母語話者がコロケーションと自由結合を処理する負荷がほぼ同じなのに対し,学習者はコロケーションを処理する負荷が自由結合より大きかったことが示唆された。学習者と母語話者のメンタルレキシコンにおける抽象名詞と動詞の距離の違いから両群の結果の違いを考察した。

認知科学セミナー:"Pre-experiment report of my research about the Stroop Effect of Kanji in Japanese Bilinguals"

  • 発表者:Liu Xiabin(劉夏彬:M1)
  • 日時:6月7日(水)17:00-18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • This is the pre-experiment report of my research about the Stroop Effect of Kanji in Japanese Bilinguals. Through the experiment result, we testified that response language and stimulus type would influence the Stroop Effect. However, Brauer(1998) said that language proficiency would influence the degree of Stroop Interference, we did not testify this conclusion from our experiment. In this pre-experiment, the participants were only 11 people, and we determined the proficiency by JLPT, it would not be effective for us to got that conclusion.

認知科学セミナー:「中国人日本語学習者のコロケーション処理における母語の影響--中日同形語+動詞のコロケーションの場合」

  • 発表者:趙立翠(D2)
  • 日時:5月31日(水)17:00-18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 本研究の目的は「中日同形語+動詞のコロケーション」を利用してコロケーション処理における一致効果と一致効果が生じる原因の一つだと仮定されているコピー仮説を検証することである。中国語と日本語の一致するコロケーション(例,自由の奪う,以下,C-J),日本語にしかないコロケーション(例,注意を払う, 以下,J-only),中国語にしかないコロケーション(例,関係を建てる, 以下,C-only),単純に間違っているコロケーション(例,旅行を戦う, 以下,Unrelated)の4種類の条件をデザインし,中国人日本語学習者12人を対象に,フレーズ判断課題を行った。実験の結果,[1] C-JはJ-onlyとは,平均反応時間においても,平均正答率においても,有意差がなかった(一致効果が得られていない)。そして,上級学習者のJ-onlyの平均反応時間がC-Jより短い傾向があるという先行研究とは正反対の結果が得られた。[2] C-onlyはUnrelatedとは反応時間において差がなかったが,Unrelatedより有意に正答率が低かった。これはコピー仮説を部分的に支持する結果であった。これらの結果から,学習者のコロケーション,特に「中日同形語+動詞のコロケーション」は一つのまとまりとしてメンタルレキシコンに貯蔵されていないことが示唆された。

認知科学教育

GS科目「価値と情動の認知科学」

内容

1、知覚の潜在性

私たちは当たり前のように見聞きして生活している。しかしそれが何であるか,どのようなモノかを認める(認知する・知覚する)ときには,自分でも気づかないうちに自身の経験や情動,価値観などが大きく影響している。

2.記憶における潜在性

私たちは経験した様々な事柄を記憶しながら生活しているが,知識や思い出のように本人に意識される記憶だけでなく,本人には意識されない記憶も私たちの行動に影響を与えている。鮮明に憶えているはずの記憶が実はまったく正しくないこともある。記憶の基本的な仕組みと性質について,具体的な研究例や実験を交えて解説する。

3.思考・判断における歪み

私たちは様々な「認知バイアス」をもっている。それらが私たちの行動判断や価値判断を左右する例を挙げ,それぞれの状況における人々の行動について考える。

4.情動性の自己認識の潜在性

私たちは自分に生じた情動反応の「原因」が何であるかを自分自身でよく理解していると信じて生活している。しかし,実際には,意識されないレベルで解釈され,変容された結果が自覚されているに過ぎない。これらの自覚されないレベルでの処理が私たちの判断や行動に与える影響について,具体的な研究例を用いて解説する。

5. ヒトは言語をどのように使っているか

ヒトは言語を短時間のうちに高速に処理することで円滑なコミュニケーションを行っている。このとき、言語を自律的なものとして処理することもあれば、周辺依存的なものとして処理することもある。言語処理の自律的な側面とコンテクスト依存的な側面を考えるために、脳科学的、心理学的ないくつかの事例を紹介し、ヒトは言語とどのように向き合っているのかについて考える。

6. 心の発達

ヒトは生まれながらにして大人としてのヒトの心を備えているわけではない。ヒトの心は、成長の過程で発達するのである。例えば、ヒトの言語は音と意味の間の関係を、擬音語・擬態語に見られるような直感的に結びつけることが可能な音象徴的なものから、犬という動物について「犬」と言ったり "dog" と言ったりするような、直感的な結びつきが不可能なものに拡張することで、膨大で複雑な情報を処理するシステムであることができる。ヒトは、成長するにしたがって、人の心の内部を理解できることができる。このような心の発達のおかげで、私たちは言語を使い、複雑な社会システムを作り上げ、そこで生きる動物たり得ているのである。

7.人間の進化と価値・情動・理性・道徳

私たちの心はどのような仕組みで、あることを道徳的に正しいとか不道徳であると感じるのだろうか。いくつかの実験や研究についての考察を通じて、私たちが、すべて理性(論理)でもって判断を下しているのではないし、必ずしもすべてのことに100%の正しさというものなどないのだ、ということを理解する。人間が複雑な社会を構成する動物である上で重要な役割を果たす、道徳や感情が人類の進化の過程を通じて出来上がってきたという観点から、 私たち人間の本性について考えてみる。

8. まとめの討論と試験