2017年度の活動報告

特別企画シンポジウム「認知科学とロボティックスの未来」

  • 趣旨:認知科学はこれまでも人工知能やロボット研究との関わりの中で研究を進展させてきました。たとえば,認知科学ではその創成期からパターン認識や言語処理,運動制御といった認知的諸機能の計算モデル構築の試みが盛んに行われました。しかしその後,コンピュータの高速大容量化や先端技術の進歩は認知科学のテーマや研究方法に大きな影響を与えてきました。中でも,深層学習を取り入れたニューラルネットワークの開発や,認知神経科学において蓄積された知見の導入などによって,近年の人工知能やロボティックス(ロボット学)は目覚ましく発展してきています。認知科学は,人間のみならず人工知能やロボットの認知の問題にどのように取り組み,どのように研究してゆくことになるのでしょうか。  特別企画シンポジウム「認知科学とロボティクスの未来」では,日本のロボティックスを牽引する大阪大学教授浅田稔先生にロボット工学の現在をご紹介いただくとともに,認知科学への要望や期待をお話いただきます。そして,認知科学会を代表する研究者の方々を交えて認知科学とロボット学の研究の接点や課題について議論し,双方の研究の未来や今後の方向性について考えます。
  • 基調講演者:浅田稔(大阪大学)
  • 指定討論者:植田一博(東京大学),鈴木宏昭(青山学院大学),永井由佳里(北陸先端科学技術大学院大学)
  • 企画:小島治幸(金沢大学)

    基調講演:「現代AI革命は,ロボットの認知能力をもたらすか?」

  • 講演者:浅田稔(大阪大学)
  • 概要:深層学習に代表される現代AIの革命は,Big Dataに支えられ,画像/音声などの感覚情報処理から,言語処理に至る過程において,過去とは大いにことなる高いパフォーマンスを見せつつある.これらの量による変化が質の変化をもたらす保証はない.本講演では,ロボットの身体のポテンシャルこそが,質の課題,すなわち心的機能の発達を促すとの仮説から,認知発達ロボティクス,さらには構成的発達科学への道筋を明らかにし,身体性認知科学の将来を議論する.

  • 主催:日本認知科学会第34回大会実行委員会
  • 共催:金沢大学・北陸先端科学技術大学院大学
  • 協力:日本ロボット学会
  • 大会HP

日本認知認知科学会第34回大会

  • 日時:9月13日(水)-15日(金)
  • 場所:金沢大学角間キャンパス

研究会

認知科学セミナー:「日本語学習者のコロケーション処理」

  • 発表者:趙立翠(D2)
  • 日時:6月28日(水)16:30-18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 本研究では,近赤外分光法を利用して,日本語のコロケーションを処理する時に,中国人日本語学習者が日本語母語話者とはどんな違いがあるかを探求した。参加者の課題はコロケーション,自由結合,意味的に逸脱している句の3種類の刺激を黙読して日本語において自然かどうか判断することであった。課題遂行中の参加者の脳活動を計測して分析した結果,母語話者は,コロケーションと自由結合を処理する時の活性チャンネルの数がほぼ同じく,そしてコロケーションを統語分析しなかったのに対し,自由結合を統語分析した。学習者は,コロケーションを処理する時の活性チャンネルの数が自由結合より多かった。そして,コロケーションも自由結合も統語分析した。これらの結果から,母語話者は全体的にコロケーションを処理するのに対し,学習者はコロケーションを分析的に処理していること,及び母語話者がコロケーションと自由結合を処理する負荷がほぼ同じなのに対し,学習者はコロケーションを処理する負荷が自由結合より大きかったことが示唆された。学習者と母語話者のメンタルレキシコンにおける抽象名詞と動詞の距離の違いから両群の結果の違いを考察した。

認知科学セミナー:"Pre-experiment report of my research about the Stroop Effect of Kanji in Japanese Bilinguals"

  • 発表者:Liu Xiabin(劉夏彬:M1)
  • 日時:6月7日(水)17:00-18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • This is the pre-experiment report of my research about the Stroop Effect of Kanji in Japanese Bilinguals. Through the experiment result, we testified that response language and stimulus type would influence the Stroop Effect. However, Brauer(1998) said that language proficiency would influence the degree of Stroop Interference, we did not testify this conclusion from our experiment. In this pre-experiment, the participants were only 11 people, and we determined the proficiency by JLPT, it would not be effective for us to got that conclusion.

認知科学セミナー:「中国人日本語学習者のコロケーション処理における母語の影響--中日同形語+動詞のコロケーションの場合」

  • 発表者:趙立翠(D2)
  • 日時:5月31日(水)17:00-18:00
  • 場所:人社1号館1階会議室(旧文学部会議室)
  • 本研究の目的は「中日同形語+動詞のコロケーション」を利用してコロケーション処理における一致効果と一致効果が生じる原因の一つだと仮定されているコピー仮説を検証することである。中国語と日本語の一致するコロケーション(例,自由の奪う,以下,C-J),日本語にしかないコロケーション(例,注意を払う, 以下,J-only),中国語にしかないコロケーション(例,関係を建てる, 以下,C-only),単純に間違っているコロケーション(例,旅行を戦う, 以下,Unrelated)の4種類の条件をデザインし,中国人日本語学習者12人を対象に,フレーズ判断課題を行った。実験の結果,[1] C-JはJ-onlyとは,平均反応時間においても,平均正答率においても,有意差がなかった(一致効果が得られていない)。そして,上級学習者のJ-onlyの平均反応時間がC-Jより短い傾向があるという先行研究とは正反対の結果が得られた。[2] C-onlyはUnrelatedとは反応時間において差がなかったが,Unrelatedより有意に正答率が低かった。これはコピー仮説を部分的に支持する結果であった。これらの結果から,学習者のコロケーション,特に「中日同形語+動詞のコロケーション」は一つのまとまりとしてメンタルレキシコンに貯蔵されていないことが示唆された。

認知科学教育

GS科目「価値と情動の認知科学」

内容

1、知覚の潜在性

私たちは当たり前のように見聞きして生活している。しかしそれが何であるか,どのようなモノかを認める(認知する・知覚する)ときには,自分でも気づかないうちに自身の経験や情動,価値観などが大きく影響している。

2.記憶における潜在性

私たちは経験した様々な事柄を記憶しながら生活しているが,知識や思い出のように本人に意識される記憶だけでなく,本人には意識されない記憶も私たちの行動に影響を与えている。鮮明に憶えているはずの記憶が実はまったく正しくないこともある。記憶の基本的な仕組みと性質について,具体的な研究例や実験を交えて解説する。

3.思考・判断における歪み

私たちは様々な「認知バイアス」をもっている。それらが私たちの行動判断や価値判断を左右する例を挙げ,それぞれの状況における人々の行動について考える。

4.情動性の自己認識の潜在性

私たちは自分に生じた情動反応の「原因」が何であるかを自分自身でよく理解していると信じて生活している。しかし,実際には,意識されないレベルで解釈され,変容された結果が自覚されているに過ぎない。これらの自覚されないレベルでの処理が私たちの判断や行動に与える影響について,具体的な研究例を用いて解説する。

5. ヒトは言語をどのように使っているか

ヒトは言語を短時間のうちに高速に処理することで円滑なコミュニケーションを行っている。このとき、言語を自律的なものとして処理することもあれば、周辺依存的なものとして処理することもある。言語処理の自律的な側面とコンテクスト依存的な側面を考えるために、脳科学的、心理学的ないくつかの事例を紹介し、ヒトは言語とどのように向き合っているのかについて考える。

6. 心の発達

ヒトは生まれながらにして大人としてのヒトの心を備えているわけではない。ヒトの心は、成長の過程で発達するのである。例えば、ヒトの言語は音と意味の間の関係を、擬音語・擬態語に見られるような直感的に結びつけることが可能な音象徴的なものから、犬という動物について「犬」と言ったり "dog" と言ったりするような、直感的な結びつきが不可能なものに拡張することで、膨大で複雑な情報を処理するシステムであることができる。ヒトは、成長するにしたがって、人の心の内部を理解できることができる。このような心の発達のおかげで、私たちは言語を使い、複雑な社会システムを作り上げ、そこで生きる動物たり得ているのである。

7.人間の進化と価値・情動・理性・道徳

私たちの心はどのような仕組みで、あることを道徳的に正しいとか不道徳であると感じるのだろうか。いくつかの実験や研究についての考察を通じて、私たちが、すべて理性(論理)でもって判断を下しているのではないし、必ずしもすべてのことに100%の正しさというものなどないのだ、ということを理解する。人間が複雑な社会を構成する動物である上で重要な役割を果たす、道徳や感情が人類の進化の過程を通じて出来上がってきたという観点から、 私たち人間の本性について考えてみる。

8. まとめの討論と試験